リソグラフ印刷のガイド
第01号から三篇。工程、技法、そして間違い。順に読んでも、目当ての一篇へ飛んでもいい。
印刷ガイド
リソグラフ印刷とは何か
孔版、ドラム、一度に一色。教会の会報のために作られた機械が、印刷でいちばん美しい失敗を生む。
孔版印刷
印刷機のつもりのコピー機
リソグラフは、日本の理想科学工業が製造するデジタル孔版印刷機だ。数百部を低コストで刷れる機械として、1980年代半ばから販売されてきた。原稿を読み取り、その画像に合わせてマスターフィルムに熱で細かな穴を開ける。マスターをドラムに巻き付けると、その下を紙が通る際に、ドラム内のインクが穴から押し出されて紙に移る。仕組みはそれだけだ。スキャナーを載せた謄写版、つまり孔版印刷機である。ドラム一つに入るインクは一色なので、一度に一色ずつ刷る。
二色目を刷るにはドラムを交換し、同じ紙の束をもう一度通す。三色目なら、さらにもう一度。紙を通すたびに、前回より髪の毛一本分だけ左へずれる余地が生まれる。そして紙は、その機会を逃さない。この機械は、もともと美術作品を作るために設計されたものではない。学校や教会、労働組合が会報を刷るために購入した。アーティストたちが見いだしたのは、会報がオンラインに移り、機械が安く手に入るようになった2000年代のことだ。
あの風合いが生まれる理由
インクは半透明の油性で、使える色数は限られている。リソのインクは大豆由来で、インクジェットのように紙の中に染み込んで完全に乾くわけではない。表面に残って少しこすれると汚れが付き、二色が重なるところでは色が混ざる。黄色の上に青を重ねれば、緑が生まれる。標準色は数十色あり、なかでも有名なのは、ほかの印刷方式にはない蛍光ピンクや蛍光オレンジだ。リソグラフでは、そのうちの二、三色を選んで使う。その場で千もの色を混ぜるわけではない。
マスターは孔版なので、紙の各部分にはインクが付くか付かないかのどちらかしかない。インク自体を薄くして刷ることはできない。灰色の空を表すには、暗い部分を大きな点に、明るい部分を小さな点に置き換える。その点の集まりを濃淡として捉えるのは、目の仕事だ。これが網点で、リソグラフ独自の技法ではない。網点の仕組みは別の記事で紹介している。リソグラフがそこに加えるのは、粗さだ。マスターはそれほど精細ではなく、インクも広がるため、輪郭の柔らかい、目に見える点が残る。
色を重ねて刷っても、位置はぴたりと揃わない。見当が1ミリずれるのは珍しくなく、印刷所が完全になくそうとしてもかなわない。色が少しずつずれ、本来一本になるはずの輪郭に、ピンクの残像が現れる。この方式で刷るスタジオは、どこも版ずれを意図的に生かしている。少なくとも、受け入れて刷っている。
リソグラフでないもの
リソグラフとシルクスクリーンは近い関係にあるが、同じものではない。シルクスクリーンは色ごとに一枚の版を使い、メッシュ状の版を通して手でインクを押し出す。インクの層は厚く、網点はさらに粗く、見当合わせは刷り手の腕にかかっている。雑誌などに使われるオフセット印刷とも異なる。こちらは四色のインクと細かな網点で刷り、見当の精度は百分の一ミリ単位で管理する。そして、リソグラフはフィルターでもない。フィルターは元の画像に効果をかけるものだが、リソグラフは一色ずつ、画像を一から描き直す。そうして生まれる一枚は、元の写真とは別の作品になる。
同じ印刷機を、ブラウザで
RETROPRINT は、実際の印刷機と同じ手順をブラウザで再現する。実物のリソインクのパレットから色を選び、写真を二〜七色の版に分解する。各版には、指定した線数と角度で網点をかける。設定した範囲で見当をずらしながら版を重ね、重なる部分ではインクの色を混ぜる。次に、紙の質感を加える。繊維や斑点を含む紙をその都度生成するので、同じ紙は二枚とない。書き出す際には、サーバーで原寸の画像をもう一度描画する。ダウンロードできるのは、画面のスクリーンショットではなく、そこで見ていた作品そのものだ。
第01号に掲載したプリントは、どれも一枚の写真と一つのプリセットから、この方法で作られた。パターンブックには、さらに34点を収録している。それぞれに使用したデザインも付いているので、自分の写真にそのまま適用できる。
網点の仕組み
インクは付くか、付かないか。写真には、その間の無数の濃淡がある。両者の橋渡しをするのが点だ。その役割は、1880年代から変わっていない。
網点
点が解く問題
印刷機では、一つの版に一色のインクを使う。紙のどの部分にも、そのインクが付くか付かないかの二通りしかない。一方、写真はその間にある無数の階調でできている。この違いを埋める役割を、1880年代から担ってきたのが網点スクリーンだ。画像を格子状に並ぶ点に置き換え、元の画像が暗いほど点を大きくする。そして、一つ一つの点を目で見分けられず、灰色の濃淡として見える大きさで刷る。新聞の写真を間近で見れば点が見える。離れれば顔が見える。
この発想は写真よりも古い。彫版師は何世紀にもわたって、彫った線や点で濃淡を表現してきた。スクリーンは、その作業を機械的に行うようにしたものだ。初めは細かな線を刻んだガラス板を版の前に置き、のちにはソフトウェアで一画素ずつ処理するようになった。
線数:lpi
網点の細かさは、1インチあたりの線数を表す lpi で示す。新聞は85 lpi 前後、光沢紙の雑誌は150〜200 lpi、美術書ではさらに高くなる。線数を増やせばよいとは限らない。線数が多いほど点は小さく、階調は滑らかになるが、最も小さな点は消え、大きな点同士はつながってしまう。そのため、明るい部分と暗い部分の両方で細部が失われる。線数が少なければ点の一つ一つが見える。それが欠点にも、狙った表現にもなる。第01号のプリントは、ほとんどが100〜250 lpi。最も粗い網点を使った表紙のスケートボーダーは40〜60 lpi で、点が画像を表す手段を超えて、それ自体の質感を帯び始める。
角度と、ロゼット
二つのスクリーンを同じ角度で重ねて刷ると干渉が起き、それぞれの版にはなかった大きな波模様、モアレが現れる。対策は、スクリーンごとに角度を変えることだ。四色印刷では15度、75度、0度、45度が使われる。黒が45度なのは、目が斜めの格子を最も見分けにくいからだ。角度の違うスクリーンが重なると、小さな花のようなロゼット模様ができる。これは、過去一世紀にわたる商業印刷のカラー画像に残された、指紋のようなものだ。二、三色のリソグラフでも、少ない版で同じことが起こる。RETROPRINT では、版ごとに角度を設定できる。
網点の形と50%の境目
網点は、いつも丸いとは限らない。丸い点は暗部で急につながる。楕円の点は一方の軸で先につながり、次にもう一方でつながるので、階調の変化が滑らかになる。四角い点は、硬く機械的な質感を生む。線スクリーンは点ではなく、太さが変わる平行線の集まりだ。いずれも50%という境目を迎える。この濃度では、丸や四角の点が上下左右の点に接し、インクと紙が半々の市松模様になる。それより薄ければ紙が地となり、その上にインクが載る。濃くなれば関係が逆転し、暗い面に白い穴が開いた画像になる。網点の印刷では、この境目をまたぎながらバランスを取る。今号の特集にある桟橋の影は70%を超え、点がつながってベタになる。まさに狙いどおりだ。
もう一つの方式:FM
網点には、もう一つの方式がある。一定の格子上で点の大きさを変える代わりに、FMスクリーンでは同じ大きさの小さな点を不規則に配置する。暗い部分には多く、明るい部分には少なく置く。格子がないので角度もなく、モアレもロゼットも生じない。その代わり、高感度フィルムのような粒状感が生まれる。今号のハチドリは、この方式による一色刷りだ。RETROPRINT では両方の方式が使える。さらに、その中間の表現を作る揺らぎの調整もある。格子から点の位置を少しずつずらし、並び方を不規則にできる。
自分の写真に網点をかける
スタジオでは、色ごとの版に線数、角度、点の形、揺らぎの量を指定して網点をかける。線数を変えると、ポインターの下で点がすぐに変わる。この処理はブラウザ上で行われるからだ。書き出す際にはサーバーで元の解像度の画像に網点をかけ直すので、画面では近似的に表示されていた点も、ダウンロードした画像には精密に描かれる。網点はリソグラフが使う技法の一つだ。版ずれが自然になじむのも、網点のおかげである。すでに点の集まりとなった画像には、寸分たがわず合わせるべき輪郭がないからだ。
なぜ版ずれは美しいのか
ピンクの版が1ミリずれた。私たちは、そのままにした。ここからは、その理由を話そう。
版ずれ
版ずれとは
カラー印刷は、同じ一枚の紙に複数の色を重ねてできている。色ごとに版を用意し、一色ずつ紙を通す。二色目を一色目にぴたりと重ねるには、紙が前とまったく同じ位置に戻らなければならない。この位置合わせを見当合わせといい、ずれることを版ずれという。必ず多少はずれる。問題は、どれだけずれるか、そして目で見てわかるかどうかだ。
原因は、ごくありふれた物理的なことだ。紙を送るローラーは滑る。繊維の集まりである紙は、一色目の印刷で濡れると膨らみ、乾くと縮む。二色目を刷るときの紙は、一色目のときとわずかに大きさが違うのだ。色を替えるたびに交換するドラムも、収まる位置が少しずつ変わる。積まれた紙の位置も落ち着くにつれて変わる。こうした変化を厳密に抑えるための機械ではないリソグラフなら、どちらかに1ミリずれるのは日常茶飯事だ。
どう見えるか
一本になるはずの輪郭線が二本になる。版が重なるはずの部分でずれると、細い白い隙間から紙が見える。一方の版がもう一方の下からはみ出したところには、そのインクだけの色の帯が現れる。形の外側に沿うピンクの残像や、猫の耳の先にできる黄色い光の輪だ。小さな文字は二重になり、顔の片側には色のついた影ができる。ずれが大きくなると、画像は色ごとの絵に分かれ、それぞれのインクが何を描いていたのかが初めて見えてくる。
商業印刷が版ずれを嫌う理由
カタログを刷るオフセット印刷では、版ずれは不良とされ、許容差は百分の一ミリ単位で管理される。目立たなくするための技法にも、さまざまな名前が付いている。トラッピングは、一色の範囲を隣の色の下までわずかに広げ、少しずれても白い隙間が出ないようにすること。リッチブラックは黒の下にシアンを重ね、黒がずれても縁が暗く見えるようにすること。校正刷りの余白にある小さな十字、見当マークは、作業者がずれを測って修正するためのものだ。どれも間違ってはいない。雑誌の写真は、元の写真のとおりに見えるべきだからだ。
リソグラフ印刷が版ずれを生かす理由
リソグラフのプリントは、そもそも元の写真そっくりになることを目指していない。二、三色のインクですでに描き直され、網点も見えている。版ずれは、その一枚がどう作られたかを素直に伝える、もう一つの痕跡だ。ずれが小さければ、色ごとの版の存在が見える。見当が完璧に合ったものはただの画像に見え、少しずれたものは刷られた一枚に見える。その違いこそ、プリントを作る理由だ。色も加わる。黒の下からはみ出した細いピンクの帯は、紙面で最も鮮やかなピンクになる。誰かがそこに塗り足したわけでもないのに。そして、画像に人の手の気配が生まれる。決してずれない機械はコピー機だ。少しずれたプリントには、部品が動く工程を経て作られた跡がある。目はそれを、失敗よりも手をかけた証しとして受け取る。筆の跡を見るときと同じように。
もちろん限度はある。ずれが大きすぎると、印刷ならではの風合いよりも、印刷の失敗に見えてくる。文字は読めなくなり、画像はばらばらになる。ちょうどいいのは、まず絵が目に入り、そのあとで気づくくらいのずれだ。今号のプリントの多くは、その加減に収まっている。
版ずれを意図的に設定する
RETROPRINT は、完璧な印刷機を再現しようとはしない。各版の位置を少しずつランダムにずらし、その位置をシード値で決める。シード値を変えれば、すべての版が別の位置に動く。ずれの最大幅は自分で設定でき、ゼロにすることもできる。もっとも、ゼロを選ぶ人はいない。ずれが自然になじむのは、下地の網点のおかげだ。すでに点でできた画像には、ずれによって崩れる鋭い輪郭がなく、柔らかな輪郭だけがある。これは四つある印刷工程の三番目で、あえて少しずらすことを役割とする唯一の工程だ。